2015年02月07日

平和な世界をつくるために ―― 『可変人間サーガ』より


この記事は、本条克明が以前にネット上で公開していた『可変人間サーガ』という異世界ファンタジー小説からの抜粋です。

          

登場人物

ユート
従司祭ユート (白黒挿絵).gif

 青い虎(とら)に変形する能力をもつ可変人間。
 ノーフォーム教の従司祭(見習い神父)。
 福音(ふくいん)を求めて修行に励むことが信仰心だと考えている。
福音とは、良い知らせのこと。 この物語では「霊的な体験によって得られる悟り(さとり)」の意味。


ファレン
金髪の騎士ファレン(白黒挿絵).gif

 黄金(こんじき)の鷹(たか)に変形する能力をもつ可変人間。
 少年騎士団、ゴールドメイン隊の隊長。
 敬虔(けいけん)なノーフォーム教徒。
 世界の平和を実現するために、身を犠牲にして悪と戦うことがノーフォーム教徒としての信仰心だと考えている。
 ユートとは、ともに敬虔なノーフォーム教徒同士、魂レベルでの強い絆(きずな)を感じている。しかし、「信仰」や「平和」に対する考え方の違いのために、いまは敵対関係になっている。


少年騎士たち
ウルフフォーム(白黒挿絵).gif

 ファレンの部下。
 狼(おおかみ)に変形する能力をもつ可変人間。
 みな十代の若き騎士である。


ティア
ティア(白黒挿絵).gif

 女魔術師サニーシャとともに放浪の旅をつづける少女。
 白リスに変形する能力をもつ可変人間。
 どんなときにも笑顔を忘れない純粋で無垢(むく)な心をもっている。彼女の存在が、ユートに福音をもたらすきっかけになった。

          

以下は、『可変人間サーガ』の「第十章 信念の戦い」からの抜粋です。



        *****

 ファレンは防具のとめ具をはずした。
 防具とともに深紅のマントがふわりと地面に落ちる。そして、詰め襟(えり)の上着を脱ぎ捨て、金色(こんじき)の翼に覆われた上半身をあらわにする。

ファレン・変形1.gif


 ユートもまた、腰に巻いた尾をほどき、チュニック(短上着)を脱いだ。虎面を有する上半身があらわになる。

ユート・変形1 .gif


「いくぞ、ユート!」
 ファレンは変形した。
 翼が左右に開き、頭部が金毛(こんもう)の鷹と入れ替わる。

ホークフォーム.gif


 それとほぼ同時に、ユートも変形した。
 青い虎の頭部が人のそれと入れ替わり、関節をきしませながら四つ足に変わる。

タイガーフォーム.gif


 先に攻撃したのは、ユートだった。
 勢いよく駆け出し、牙(きば)をむいてファレンに襲いかかる。
 ファレンは跳躍(ちょうやく)して虎の牙をかわし、そのまま飛翔した。

 人型の鷹はそのまま上昇を続け、ユートの頭上を旋回する。
『ずいぶんと積極的だな、ユート。だが飛翔能力を持たぬお前に、俺から先(せん)を取ることなどできぬ』

 ファレンは鷹の視力で標的を捕捉し、そして、急降下を開始した。

 虎の背中に輝く翼が広がった。
 虎が、矢のような勢いで飛翔する。

『何っ!?』
 ファレンはとっさに体をひねって、虎の体当たりを紙一重(かみひとえ)でかわした。

 空中で、二人の可変人間が対峙(たいじ)する。

 少年騎士たちが驚愕(きょうがく)の声を上げ、広場にどよめきが起こった。
「と、虎が飛んだ!」
「馬鹿な! 隊長以外にも飛べる者がいるなんて!」
「しかも、見ろ! あの虎、翼を動かしていないぞ!」


 羽ばたくことなく宙に浮かんでいる虎を、ファレンは猛禽(もうきん)の目で見据えた。
『霊翼(れいよく)を手に入れたか、ユート。……なるほど、確かに何か霊的な体験を積んだようだな。だが、それだけで福音(ふくいん)を得たなどとは認めぬ。霊能力は悟りにあらず。翼を得たところで俺と条件が互角になっただけだ。本当の勝負は、これからだ!』

 金色の鷹が、虎に向かって突進した。
 虎もまた、迎え撃つようにして突進する。

 空中で両者がすれ違った。
 ともに鉤爪(かぎづめ)の一撃を繰り出したが、いずれも空を切った。

 空中で、再び対峙した。

『ユートよ、お前は確かに強い。だが、お前の強さは個人の武勇に過ぎぬ。俺は世の平和のため、世界をより良く変革するために戦っている。世界が俺を必要としているのだ。お前がいかに力を発揮したところで、大局(たいきょく)には勝てぬ!』

『武力をもちいた時点で、それは平和ではない!』

 両者が同時に突進した。
 すれ違いざまに爪の一撃が交錯(こうさく)する。
 猛獣と猛禽の爪が、互いに頬(ほお)をかすめた。

 可変人間たちは振り返り、再度、空中で向かい合った。

『行動を起こさずして平和が訪れるものか!』
 鷹が、突進した。
『世の変革には必ず痛みがともなう! それは産みの苦しみであり、さけては通れぬ!』

『なぜ世界を変える必要がある!』
 虎が、突進した。
『どんな境遇の中でも人は笑える! 真の平和は、ひとりひとりが幸せを選ぶことでもたらされるのだ!』

 両者が空中で激突した。
 繰り出された鉤爪がぶつかり合う。
 虎と鷹は、もつれ合うようにして下降した。

「隊長!」
「ユートさん!」
 少年騎士とティアが、同時に声を上げた。

 二人の可変人間は、芝の大地に落下した。
 両者は組み合ったまま地面を横転し、そして、人型の鷹が、虎を組み伏せるかたちで上になった。

 鷹の鉤爪が、ユートの喉(のど)をつかんだ。
 虎が苦悶(くもん)の表情を浮かべ、うめき声をあげる。

『どんな境遇の中でも笑える、だと!? ユート、お前、本気で言ってるのか! まさかそれが、お前の得た福音だと言うつもりじゃないだろうな!』

『そうだ、それが私の福音だ! 環境や境遇といった外的要因は重要ではない。人は、自分の意志で幸せを選び取ることができる。個々の「選択」こそが、真の平和をもたらし得る福音なのだ!』

『ふざけるな! お前には失望したぞ! そんな陳腐(ちんぷ)な理屈で世界が救えるものか! 人は自分の意志で幸せを選べるだと? 環境や境遇は重要ではないだと? お前は最後まで大局が見えなかったようだな! 世界や現実を見ずに、理想に逃げるのか!』

 鷹が、喉をにぎる手に力を込めた。
 虎が口から泡を吹き、苦しげに身悶えする。
 だが、ユートの思念の声は、凛(りん)としていた。

『違う! 違うぞ、ファレン! 見えていないのは、あなたのほうだ!』

『なんだと!?』

『あなたは肉眼で見える部分だけで人の幸不幸を判断している! その人が幸せか否かは、その人の心が何を選び、何を見ているかで決まるのだ!』

『しょせん、現実逃避のきれい事だな、ユート! 過酷な境遇にありながら幸せでいることなど、本当にできると思っているのか?』

『思っている……いや、知っている! 霊に憑かれていると言われ、石を投げつけられ、放浪の旅をしいられながらも、自分は幸せだと言って微笑む人を、私は知っている!』

ティア(白黒挿絵).gif


 ユートは下から掌打(しょうだ)を放った。
 ファレンの脇腹を浅くとらえた。当たりが浅かったのは、ファレンがとっさに飛びのいて衝撃をやわらげたからだ。

  ――<中略>――

 鷹が、猛禽の目で虎を見下ろした。
『そのていどの悟りでは、主(しゅ)も、俺も、お前に勝たせたりはしない。やはり御心(みこころ)と大義(たいぎ)は、俺とともにあったのだ』

『まだだ……まだ終わりではない!』
 虎が、光の翼を広げて飛翔した。

『決着は空でつけようと言うのか? おもしろい、相手になるぞ!』
 鷹が、追うようにして上昇した。

 上空で、二人の可変人間が対峙する。

『ユートよ、お前の主張が立派なのは認めてやる。だが、しょせんは理想だ。何より「心のあり方しだいで幸せになれる」という理論は、個人の枠(わく)から抜け出していない。世界の平和を志す俺に比べて、お前の悟りは小さすぎた。それがお前の敗因だ』

『ファレン、最後まで見えていなかったのは、あなたのほうだ』

『なんだと?』

『幸せという感覚は、人と共感し、分かち合えるものなのだ。心の幸せ、心の平和は、個人の枠にはとどまらない。それは身近にふれ合う人々――隣人(となりびと)を通じて、世界へと広がっていくのだ』

 ファレンは沈黙した。猛禽の目で、ユートを凝視している。
 やがて、鷹は小さくかぶりを振った。
『……やはり理想だな。それで本当に世の中が変わるとは思えない。俺たちは変えてみせた。しかし、お前のやり方では無理だ』

『いや、あなたは何も変えてはいない』

『馬鹿な! 俺たちは王国を打倒し、奴隷制を廃止した。勝利が世界を変えたのだ』

『ならば問う。あなたのしたことで、本当に世の中は平和になったのか? あなたのおこないは、あなたの大切な人を幸せにし、笑顔をもたらしたのか?』

 ファレンは口をつぐんだ。
 猛禽の目がひどく動揺している。

『ファレン、あなたの平和を願う気持ちは尊い。だが、平和とは国の制度を変えることではない。真の平和は、ひとりひとりが心に幸福を感じることで訪れるのだ』

『…………』

『ファレン……あなたは大局に目を向け過ぎている。そのために世界との調和を失った。世界の平和を願うあなたの心に、平和がないからだ』

『……与えられた力を世のために使うのが、主の御心だ』

『違う! 主の御心は、生きとし生けるものの一体性にある。主はいかなる犠牲も望まない。あなたがその身を犠牲にして戦い続けるほど、あなた自身は平和から遠ざかっていく。世の平和をまことに願うのならば、まずはあなた自身の心を、平和と、安らぎと、喜びで満たせ。あなた自身が「平和」になるのだ。あなたの「平和」は、あなたの隣人に伝わるだろう。そしてその隣人の「平和」がさらなる隣人へと伝わっていく。真の平和は、そうやってつくられるのだ』

『…………』

『ファレン、あなたは私に「志をそろえよう」と言った。私は今、同じ言葉をあなたに返す。ファレンよ、私と志をそろえて欲しい。私とともに心を平和で満たすのだ。そして私たちの「平和」を、めぐり会う人々に伝えて、この世界に広げていこうではないか』

 ――<下略>――

        *****


 真の平和は、戦うことによって訪れるのではありません。
 戦うこと、争うこと、それ自体が『平和』ではないからです。
「平和のための戦い」は、自分自身の心を『平和』から遠ざけてしまいます。

  調和していることによる安心感――
  優しさや好意を基盤にした幸福感――
  喜びを共感し合うことによる一体感――

 その「心の平安」をひとりひとりが胸にいだき、大切にし、ふれあう人々と伝え合うことで、真の平和は実現する――
 僕はそう確信しています。

 そしてそれは、「いま、ここ」から――
 すなわち、あなたからはじまる平和です。


 この物語から、『平和』について何かを感じとってくださいましたら、幸せに思います。




タグ:祈り
posted by 本条克明 at 01:22| 人生観 | 更新情報をチェックする
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